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葉村くんは幼いころに事故で両親をなくし、姉である理美(りみ)さんと二人でアパートに暮らしていた。
幸いご両親のはふたりが大学を卒業するまでに必要なお金を残してくれてあり、生活には困っていなかった。
加えて姉弟仲もよく、学校から帰った後はその日あった出来事をお互いに報告していたそうだ。
そんな穏やかな日々を重ねて、葉村くんが中学三年生、お姉さんが大学一年生になったある日のこと。
「ねえ理久、どうしよう」
「どうしようって、なにが?」
「彼氏……できた、かもしれない」
四つも年上なのに、まるで初恋を知った中学生のように頬を赤くするお姉さんを、葉村くんは思わずクスクスと笑ってしまった。
もちろん、弟として素直にうれしい気持ちもあったけれど。
「おめでとう。だけど、“かもしれない”って、なに?」
「だ、だ、だって! ものすごくカッコいい人なの! 入学してからずっと学部中の視線を集めるような美形で、とっくに可愛い彼女がいるんだろうって、恋することもあきらめてたようなひとで……」
「その人に、告白されたの?」
「……っ、うん」
お相手は、お姉さんと同い年、同じ学年の森田恭弥(もりたきょうや)さん。街中を歩けば誰もが振り返るほどのイケメンで、大学での成績もよく、それでいて物腰が柔らかい。
お姉さんはそんな人の彼女になれたことがなかなか信じられなくて、それからしばらくは夢の中にいるようにふわふわした様子だったらしい。

