静寂の耳鳴りは夜の寂しさを募らせる。
10センチほど開けっ放しになっている窓からは春の匂いが漂ってきて、僕は窓辺に左手を伸ばした。
暗闇に舞う夜桜に背を向けながら、目を瞑る。
蛍光灯に照らされた自分の左腕。
日常生活を送る分には何の問題もないけれど、人様が見たら思わずギョッとしてしまうだろう。
(相変わらず、醜い傷だなあ…)
真っ赤に爛れたケロイドは、嫌でもあの時の記憶を思い出させる。
あの忌まわしき日に。空から振り落とされたあの日のことを。
火傷を負った左腕は見るに堪えない程に醜い。けれど、僕は今生きてしまっている。少しの怪我を負っただけで、生きていくのに支障はないのだ。
事故の後、数え切れないくらい自問自答を繰り返してきた。「どうして海は死んでしまったの?」「どうして死ぬのが僕じゃなかったの?」って。
……どうしてなんだろうな。
答えはきっと、永遠に出ない。
(…ねえ、海、今日ね。本当にびっくりすることがあったんだよ)
窓辺に置いてあったお守りをこちら側にたぐり寄せて、今日あったことを反芻する。
(真山さん、って人と知り合いになったんだけどね?ビックリだよ。…プロの画家だったんだもん。海は知ってるかな?僕は名前だけ知ってる程度だったけど…)
『ー若き天才画家が新時代を作り上げるー』
『ー現役大学生画家、ウミノの素顔に迫るー』
『ー新鋭画家ウミノが捉える世界観とは?ー』
部屋の床には家に帰ってから調べた「ウミノ」についての資料が散乱していて、それのどれもが「ウミノ」を天才画家だと称賛するものばかりだった。
実際彼は今まで多数のコンクールで入賞をしているらしく、調べれば調べる程彼が遠い世界の人間だということを痛感する。
声優をしている時ならまだ劣等感を抱かなかったのかもしれない。けれど、今の何も持たない僕では自分の存在をあまりにちっぽけに感じてしまう。


