玄関に入っても、挨拶がないのはいつもの話。



「なんで……母ちゃん?」



なのに、今日はおかえりーって母ちゃんが言ってくれた。


「あー、もう! うるさいなぁ。こんな恥ずかしいこと二度と言いたくない!」



あまりの変わりように戸惑う俺。



「ただいま、母ちゃん!」



けど、嬉しくて笑顔で挨拶する。



不意に母ちゃんが訊いている。



「そうだ! 泉さんの下の名前は?」


「ん? 音羽だけど?」


「音羽ちゃん、か。
本当に音楽が出来そうな名前」


「一応アイツ世界進出してるぞ」


「えっ!! そうなの!?
はやく言ってよー!!」



いつもなら部屋までまっしぐらだけど、今日はリビングで母ちゃんと向かい合わせに座った。



「母ちゃん? どうしたんだ?」



母ちゃんはキッチンの方に行って、ご飯をこっちに持ってきてくれた。


「ご飯、ひさしぶりに食べよう。一緒に」



「……良いに決まってんだろ!」



俺がずっと求めてたもの。


それが叶いそうで。


目頭が熱くなる。