「あなたもしかして、アイツのこと……」
母ちゃんははっとした顔で音羽に訊く。
「好きですけど何か? まぁ、でも片想いですけど。私のことは見もしないと思います」
翔が言ったことは事実だった。
音羽は優しそうだけど、切なそうに遠くを見つめる。
アイツって誰だ?
そんなに高嶺の花みたいな存在なのか。
音羽のことを見向きしないって相当だ。
じゃあ、なんだ?
彼女持ち? 遊び人か?
でも、少なくとも音羽の好きな人、俺の関係者だな。
母ちゃんがアイツ呼ばわりしているから。
「……今日はとりあえず帰りな。
時間がもう遅いわ。家の人に連絡しときなさい」
「じゃあ、また来ます!
それでは、失礼しました!」
音羽は足早にその場を去った。
母ちゃんが入るのを見たあと、俺も母ちゃんについていくように、家に入った。



