小さな約束





「私と関わらないで」



お父さんを失ったことは今でも鮮明に覚えてる。


お母さんが壊れ始めたきっかけだから。



誰も、誰も、私を見てくれない。


それならいっそ突き放す方がまだいいんだ。





「泉さんって、ピアノ弾かないの?
あんなに嬉しそうにピアノ弾いてたのに。
しかも上手いし。
やったらいいのに「弾かない」」



とは言いつつも、弾きたい。



弾きたい。



もう、ピアノ弾かないって決めたのに。



心が揺らいでるのが私でも分かる。




「……何かあったらすぐ言うんだぞ?」



何もかも見透かしたような顔で言われても、腹が立って。



綾瀬の話を無視して、家に着いた私は乱暴にドアを閉めた。