そこへ突然、霧の向こうから女性の声が聞こえた。

「誰かいるの?」

 あわててメイファンは魔獣から手を離して立ち上がる。魔獣は気配を察したのか、センダンの時のように姿を消した。

 メイファンは急いで立ち入り禁止の立て札の外側に移動する。また不法侵入で捕まりたくはない。聖獣殿の付近にいるだけで怪しまれそうな気もするが、魔獣にさらわれてここで落とされたと正直に伝えよう。ビャクレンに魔獣が現れたことはテンセイにも伝わっているはずだ。

「ごめんなさい。魔獣に捕まってここに落とされてしまって……」

 霧の中から近づいてくる人影に向かって、メイファンは必死に言い訳をする。すると人影は歩を早めて近づいてきた。

「やっぱり、メイファン様……」

 霧の中から現れたのは、宮廷内の庵で世話をしてくれた侍女のシェンリュだった。