斎藤、と呼ぶ声が聞こえた。
土方である。
副長自ら、二階の捜索に上がってきたらしい。
斎藤の代わりに沖田が、明るい声を繕【つくろ】って土方に返事をした。
斎藤は沖田に肩を貸して立たせ、死臭の立ち込める座敷を後にした。
新撰組は、一夜を池田屋の近辺で明かすことになった。
暗夜の市街を東の端から西の端まで突っ切って壬生【みぶ】の屯所まで帰投するのは、途中で尊攘派志士による報復を受ける危険性がある。
新撰組は、協力関係にある会津藩に護衛されつつ、近藤と土方が、捕縛した者から事情聴取を行っている。
頬を張る音が時折、上がった。



