静かに微笑みながら言葉を紡ぐ容保公には、決闘も切腹も辞さぬと意気込んでいた新撰組の面々も、しおらしく黙るよりほかなかった。
斎藤たちは、目上の者を前にしているわけだから反射的に頭を低くしてしまうのだが、視線を下げるたびに容保公は、顔を上げよと柔らかく咎【とが】める。
「顔を上げよ、斎藤。実は一度、遠目におぬしの姿を見たことがあるのだが、おぬしが斎藤一だろう?
左利きの豪剣の噂は、我が会津藩の中でも有名だ。機会があれば、我が藩の誇る剣士らとの模擬戦に挑んではもらえぬか?」
まさか容保公に名と顔と剣技を知られているとは、思ってもみなかった。
顔を上げた斎藤は、容保公の穏健で沈着なまなざしに迎えられ、はっと胸を突かれた。
この後ろめたい間者の斎藤一にも、顔を上げてよいと言葉を掛けてくれる主君がいる。
類稀【たぐいまれ】な御方だ。



