誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



ただ、沖田への尊敬と畏怖は紙一重だった。


剣において天才の名をほしいままにする沖田は、稽古に一切の容赦がなくて滅法【めっぽう】荒っぽいと、もとから弟子らに恐れられていた。


加えて、新撰組一番隊組長としての沖田は、その鋭剣で敵のみならず、規律を乱した隊士をも斬る。


人好きのする笑顔の一方で味方殺しの血濡れた剣を振るう沖田を、忌み嫌う新参の隊士は少なくない。



沖田が胸を病んでいるとわかれば、彼を避ける者が更に増えるだろうか。


病状が悪化してしまったら、沖田の看病を誰に任せればよいだろうか。


思案しかけて、斎藤は、やめた。


新撰組局長の近藤か、副長の土方か、判断力があって沖田をかわいがっている者に、全て任せてしまえばいい。


俺が自分で考える必要はない。