誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



容保公は、非行五箇条への返答を声にする前に、少しだけ咳き込んだ。


側仕えの会津藩士が慌てて駆け寄り、新撰組の面々もとっさに腰を浮かせかけるのを、容保公は手で制した。



ぴしりと伸びていた背を丸め、どうにか咳を抑えようと、つぶった目の端に涙を滲ませる。


今にも壊れてしまいそうな容保の姿に、この御方も俺と同じ人間なのだなと、斎藤は唐突に実感した。


この御方は神でも仏でもない。


なのに、ひどくたくさんのものを背負っている。


重くて苦しいに違いないが、次々と背負わされるもの全てを律儀【りちぎ】に引き受け続けている。



ようやく呼吸の整った容保公が、改めて新撰組と向き合った。