土方は、唇の片端を持ち上げてみせた。
勝が斎藤に間者の才能を見出したように、あるいはそれ以前から、土方も斎藤に同じ印象を抱いていたらしい。
利き腕を使い分け、冷静にも苛烈にもなれる斎藤は、間者として有能である。
新撰組が壬生浪士組と名乗っていた頃から、斎藤は土方の命じる偵察の任に就いていた。
芹沢鴨の暗殺に先立つ偵察や実行当夜の段取り、長州藩の間者であった御倉伊勢武らの暗殺、合計して十数名に及ぶ脱走者の追跡と処分。
人斬り集団と名指される新撰組の中でも、斎藤が担う役割は特に闇深い。
斎藤を走狗【そうく】に仕立てた勝にとっては、土方によって二重の間者に任じられた斎藤の現在の立場は、非常に好都合だろう。



