「敵が勝手に逃げ出したんだ。俺を囲んでいた連中、これ幸いとばかりにさ、窓から中庭に飛び出して行ったよ。
まあ、どうせ連中は、平助か新八さんに斬られたんだろうけど」
「藤堂さんも永倉さんも、負傷したが、無事だ。近藤さんもな」
当然だと笑って、沖田は手を口に当て、いつもの空咳をした。
手甲が血の色に染まっているのは、沖田自身の吐いたものだろう。
背負い込む男だ、と斎藤は思った。
殺戮者の看板だけで十分だろうに、病まで背負い込むとは、沖田も苦労の多いことだ。
この気のいい男に、なぜこんなふうに、いくつもの業が課せられているのだろうか。
沖田は斎藤と同年の生まれで、今年二十一である。
幼い頃から剣の腕が立ち、筋力も付いてきた今般、新撰組でも五指に入る使い手と、誰もが沖田を称している。



