誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



二階の座敷に沖田が倒れていた。


暗がりに潜む敵影がないことを確認しつつ、斎藤は沖田を抱き起した。


沖田の顔も胸も血に汚れていたが、刀傷はなかった。


斎藤は、すぐにぴんと来た。


沖田が日頃、嫌な空咳をすることには気付いていた。



「労咳【ろうがい】か」



斎藤には医学の知識など一つもないが、胸を病んだ者がする咳が風邪ひきの咳と違うことくらいは知っている。


沖田の体調が優れぬ日があることは、稽古を通じて知っていた。


健康なふりなどしていても、剣を交えれば、嘘は簡単に見破れる。



沖田が、うっすらと目を開けた。


二重まぶたのくっきりとした目が、暗がりの中の斎藤に、やがて焦点を結ぶ。



「ああ……生きていたのか、俺は」



「血を吐いたんだろう?」



「五人に囲まれて、一人斬った。その後にね」



「よく斬られなかった」