火種には巻き込まれておけ、と斎藤は勝に指示されている。
危険な役目や厄介事は買って出ろ。
ただし、目立つな。
近藤と土方の信用を損ねるな。
誰とも不和を起こすな。
親しすぎる者を作るな。
勝の指示の通りに実行するのは、難しいことではなかった。
もともと試衛館時代の最初から、斎藤は、付かず離れず、寵愛されない代わりに嫌厭【けんえん】されないといった位置付けである。
儀礼の右の剣と戦闘の左の剣の使い分け、つまりは表の顔と裏の役目の切り替えも、切れ者で鳴らす土方でさえ認めるところだ。
斎藤が名乗りを改めた本当の事情に、現時点では誰も考えが及んでいないようだった。