誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



「先生の御客様を庭先で立ちん坊させたままやなんて、うちが叱られます。どうぞ御上がりやす。奥の部屋へ」



他人に聞かれる不安がある場所で話をするな、という意味だろうか。


前に来たときは、志乃は平然として、主の帰宅まで、玄関で斎藤を待たせていた。


その前のときは、道場で汗でも流してきたらと言われ、玄関先からも追い払われた。



平屋建てに見える手狭な庵には、奥の部屋と呼ばれる中二階の茶室がある。


つまるところ、隠し部屋である。


京都の市中には、外から見えぬ部屋や階段を備えた町屋が多い。


どこに何者が潜んでいても不思議はないと、端【はな】から疑ってかかる方がよい。