吉田道場は、長方形をした京都の町の、壬生から見て対角の郊外にある。
南北に走る東大路と東西に走る今出川通の辻を東へ越え、慈照寺銀閣へ向かう道すがらにそびえる吉田山の足下、
鬱蒼【うっそう】とした雑木林の中へ分け入れば、こぢんまりとした道場と庵【いおり】のような家に行き当たる。
斎藤が吉田道場と呼ぶ場所が、それだ。
斎藤は、人通りの多い道を選んで歩いた。
人混みは嫌いだが、目立ちたくはない。
月代【さかやき】を剃らず地味な格好をし、猫背気味にうつむいて、刀を左に差している。
どこにでもいる脱藩浪士のような風体を装えば、余所者を厭【いと】う京都人から露骨な嫌悪の目を向けられることはあっても、
新撰組三番隊組長の斎藤であると見破られることはない。



