「来た」
斎藤は短く告げ、冷えた左の手のひらに息を吐き掛けた。
一度、拳を握って、開く。
体はしなやかに動く。
心は凝り固まって動かない。
藤堂たちが、横たわる伊東を見付けたらしい。
足音が真っ直ぐに駆け寄って来る。
罠だと察しているだろうか。
卑劣だと、伊東が最期に言ったように、藤堂の口からも罵【ののし】られるだろうか。
斎藤は唇を噛んだ。
舌先に血の味が滲んだ。
甘くて塩辛い。
こんな小さな痛みの感じ方は、とうに忘れた。
惨劇が間もなく幕を開ける。
斎藤は、刀の柄に左手を掛けた。
====================
誠狼異聞
―斎藤一、闇夜に駆けよ―
了
☆.。.:*・゜
インディーズ出版レーベル【出版サービスWille - ヴィレ】さんより、冊数限定の企画誌として2016年7月発刊予定。
企画誌版には、ページ数の関係で「五 会津藩主」が入りません。
表紙と扉絵が付きます。
明治に入って斎藤が東京で高木時尾と結婚して幸せになるまで、短編(鳥羽伏見の戦い~甲陽鎮部隊編、会津~斗南編)に分けて書き進めたいと思っています。
(2016.06.05)



