斎藤もその歌を見た。
物静かな中にも力強さがあり、武士としての立ち居振る舞いが美しかった山南を、伊東はちょうど満開だった山桜になぞらえて、歌に詠んだ。
物覚えが存外よい永倉が、暗記していた二首の歌を口ずさんだ。
春風に 吹き誘われて 山桜 散りてぞ人に 惜しまれるかな
吹く風に しぼまんよりも 山桜 散りてあとなき 花ぞ勇まし
春風とは、山南自身が見出した己の去り際を指すのだろうか。
もしかしたら伊東は、自分の姓にある東の字と、春風である東風【こち】とを掛けていたのではないか。
伊東の参入が山南の退場を決定付けたことは、状況から鑑【かんが】みて、否定できない。
伊東に自責の念が強いことを、斎藤は知っている。



