誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



「伊東さんは、誰と出会えばよかった?」



「福井藩主の春嶽【しゅんがく】公かねえ。あとは、もう死んじまったが、長州の吉田松陰【よしだ・しょういん】や松代の佐久間象山【さくま・しょうざん】ってところか。


何にしろ、新しいことを言い出すやつは早死にしちまうのさ。俺は長生きしてやる予定だが」



気紛れを起こしたらしい勝が、空のままだった斎藤の盃に酒を注いで差し出した。


受け取った斎藤は、干上がった喉に酒を流し込む。


伏見の酒だと、さっき聞いた気がする。


伏見の酒は口当たりが軽すぎ、まるで水のようで、酒を飲んでいる心地がしない。


灘【なだ】の酒のように辛い方が、斎藤は好きだ。