誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



あの人には池田屋の一件を報告せねばならない。


確かなことはわからぬが、と斎藤が正直に前置きを告げれば、あの人は常に違わず、豪気に笑いながら毒舌を振るってみせるだろうか。


あの人は何でもわかっているし、知っている。


池田屋の騒動も、斎藤が報告するより先に、別の誰かから情報を仕入れてしまうだろう。


あの人の洞察力と情報網は、おそらく日本で一番、優れている。



斎藤は、そっと一つ息をついた。


疲労を感じている。


ものを考えれば疲れる。


人の多いところにいるのも疲れる。


人を斬るのが、何よりも疲れる。