誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



永倉を欺【あざむ】き続けている。


それより更【さら】に輪を掛けて、藤堂と伊東を欺いている。


なぜそうする必要があるのだったか。


自分がやっていることがわからない。


帰るべき場所がわからない。


居場所を尋ねていいのかもわからない。


自分が何者なのかわからない。



生まれたときから一という名だった自分を捨ててしまおうか、と思った。


その晩、初めて、肉欲がもたらす浅ましい忘我の心地に溺れた。


つい今し方、武田を殺した左手で女の口を塞いで嬌声を封じ、玄人である相手がぐったりするまで荒々しく行為した。


あの女は、どこの店の何という名前だっただろうか。


顔も覚えていないし、思い出すつもりもない。