誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



斎藤は声をなくしたまま、勝に連れられて、民家にしか見えぬ飲み屋に入った。


個室に通され、酒が運ばれる。


勝は手酌で、さっさと飲み始めた。


にやにやしつつも鋭く突き立てるような勝の視線から、斎藤は目を背けた。



「前に会ったときは、年の割に青臭せえ表情を見せるやつだと思っていたが、こいつぁまた色気のある顔付きになりやがったな。


大層な床上手だって話じゃねえか。長い得物【えもの】を振り回して刺したり突いたりは御手の物ってわけかい」



酒を飲んでも赤みの差さぬ顔に、かっと血が上るのがわかった。


怒りではない。


羞恥心【しゅうちしん】だと気付く。


そんな感情が自分の胸に残っているとは知らなかった。


斎藤は唇を噛んだ。


胡坐【あぐら】の膝をつかむ手に、おのずと力が入った。