誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



おい斎藤よ、天然理心流の連中は、はったりがなかなかうまいじゃねえか。


そう指摘された日、斎藤の胸にあった稚児じみた憧憬は完全に熱を失った。


土方とかいう色男は、はったりの筋書きを作るのがうまい。


そして道場長の近藤は、筋書きどおりのはったりを周囲に信じさせる迫力を持っている。


違うかい、斎藤?


世の中には意地の悪い人もいるものだと、斎藤は思う。


頭の悪い自分は誰かの下に仕えて生きていくしかないことは、最初から悟っていた。


ぜひ近藤や土方の下でと決めていた矢先に、あの人は冷水を引っ掛けてくれたのだ。