誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



伊東率いる一派は新撰組の屯所を離れ、先の天皇である孝明天皇の御陵守護の任を担い、御陵衛士【ごりょうえじ】と名乗って、長円寺を仮住まいとした。


斎藤は、伊東たちと共に新撰組と袂【たもと】を分かった、というふりをしている。


伊東を信奉して御陵衛士に加わったわけではない。



伊東さんの言う通り山南さんには士道があった、と斎藤は思う。


伊東さんも自分の士道を行こうとしている、とも思う。


ここにいる面々も同じく、真っ直ぐな士道を進もうとしていて、そのためには新撰組のままではいられない。


脱走すれば死あるのみと断定する局中法度を知らぬ者はいないから、全員が全員、新撰組による襲撃と粛清を覚悟している。


皆、死を恐れて顔色が悪い。


けれども、命を失うことよりももっと、道を曲げることを恐れている。