誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―



斎藤は自白の現場に居合わせず、後でその話を聞いて、随分と杜撰【ずさん】な計略だと思った。


長州藩には先進的な私塾があって頭のいい学者連中が揃っているという。


その賢い人間が、町中を火の海にし、皆が泡を食っている隙に天皇を誘拐しようなど、稚拙な策を思い付くものだろうか。


件の自白内容には、本当に、何の操作も加えられていないのか。



とにもかくにも今宵、いや既に日付の上では昨夜であるが、池田屋に集った尊攘派の志士らは市中大火と天皇誘拐に向けた議論を行っていたらしい。


そこへ新撰組の御用改めが入り、抵抗する志士らを、近藤隊が先陣を切って征伐ないし捕縛した。


そういう筋書きになっている。