藤堂や原田に幾度も呼び掛けられ、ようやくのろのろと正気を取り戻すと、
伊東はきっちりと結われた髷【まげ】を掻【か】き毟【むし】り、首筋に爪を立て、唸るように声を絞り出した。
「なぜ山南さんが死なねばならなかった? 私のせいか? 私がここへ来たばかりに山南さんの立場を奪ってしまった、そのせいなのだろう?
語り合える友を見付けたと……詩歌でも朱子学でも国学でも、何でも話せる同志だと……私は山南さんと、もっと屈託なく酒を酌み交わしたかったのに……」
伊東は震えていた。
泣いてはいなかった。
その目がぎらつくほどに充血しているのは、悲しみのためではなく、怒りと責めのためだった。
自分を怒り、責めているのだろうと、斎藤は思った。



