神戸、山の麓にある中学校。


見下ろせば海。見上げれば山。

毎日のように貨物船が交差する風景は、夜になると地上の星と変わる。

さすが港町といったところだろうか

ロケーションは最高。


その中学校の校舎の奥にひっそりと美術室はあった。



蝉の鳴き声が、窓ガラスを通り超えて聞こえてくる7月。


篠宮紗由美は冷房の効いた美術室の窓側で、11月に行われるアートコンテストの作品制作に取り掛かっていた。



「よし。下描きはこんな感じかな」



準備室からイーゼルを運び出し、下塗りを始める。


コンテストのテーマは「伝えよう、故郷の魅力」

正直言って、住んでいるこっち側からすると魅力なんてわからない。


だから夏休みが始まった直後、神戸の有名な観光地をひとつひとつ回ってきた。


その時撮った写真を参考に、作品のデザインを考える。


中学生活最後のコンテストだから妥協はしたくない。



三年間頑張ってきたことのすべてをこのコンテストで発揮する思いで、キャンバスに色を乗せた。



―――――



今日はこの辺にしておこう。


日が西にかなり傾いてきた頃、明日はデザインの一部を変えようかなんて思いながら、片付け始めたときだった。




「篠宮ってさ、絵描いてるとき顔つき変わるよな」


「松浦!」



ハンドボール部のエース ―松浦隼人が窓の外から顔をのぞかせていた。



「いつの間にいたの……。ていうか、ここ二階なんだけど」


「いまフェンス登ってきた。ココそんなに高さないからヨユー。ちょっと涼ませて」



そう言うと窓ぶちのうえを飛び越えて入ってきた。



「部活は?松浦ってキャプテンでしょ」


「今休憩中。このあと自主練だからキャプテン居なくても大丈夫!」



いや、大丈夫じゃないでしょ

と言いたいとこだが、いつものことだからいちいち気にしない。



「お茶飲む?」


「おう。さんきゅー」



冷蔵庫の中からお茶を取り出し、2つのグラスに注いだ。



そのグラスを持って美術準備室から出ると、松浦は描き始めたばかりの絵を見つめていた。