カノちゃんは不思議な子だ。


入学式の代表挨拶で話す彼女を見たとき、僕は『この子なら変えてくれるかもしれない』と思った。


僕と律に絡まるイバラのつるを断ち切ってくれるかもしれない──そう思ったんだ。


その予感は、外れていなかった。


むしろ思っていたよりもずっとたくさんのものを、僕らに与えてくれた。


でもカノちゃんは与えるだけ与えて……受け取ってはいなかったんだろう。


僕を含めた、メンバーの誰からも。



「詳細は私にはわかりません。お止めしましたが意思が固いようでしたので」


「……ならなんでそのとき俺たちを呼ばなかった」



律の静かな怒りにも櫻井さんはまったく狼狽えない。


その独特な瞳のかげりは、これまで数多くの修羅場を掻い潜ってきた人間のものと同じ香りがする。


ただ者じゃないんだろうなぁ、この人も。


そもそもこの学園には天才しかいないんだもんね。