けれど、なにも食べていないからか吐くことも出来ない。


トイレに座り込んだまま荒く息をした。



「う、……うぇ……」



こういう時、昔のあたしはどうしてたっけ……。


混濁する意識の中で、過去の自分を思い出そうとするけれど、上手く思考が働かない。


その時だった。



「……カノカ?」



部屋の方から聞こえてきた聞き覚えのある声にハッとする。


力を振り絞ってトイレのドアを開けると、向こう側にいた小さな影がこちらに気づいて駆けてきた。



「カノカッ」


「日、向……」


「カノカ、おきた」


「……うん、おきたよ……」


「っ、どったの……? きもち、わゆいの?」



日向は小さな手であたしの頭を撫でながら、心配そうに様子をうかがってくる。


出逢った頃はこんな顔しなかったのに、やっぱり成長してるんだな……とこんな状況ながら、少し微笑ましくなった。



「ぼく、ユキちゃ、よんでくる」

「……え、」

「まってて、だいじょぶ、よっ」



でもとつぜん顔色を変えた日向はあたしの手をぎゅっと握って、有無も言わさず踵を返す。


時折転びそうになりながら、それでも懸命にぱたぱたと走っていく後ろ姿に呆然としてしまう。