リビングにはいない。
バスやトイレにもいない。
寝ているのかと思って寝室を覗いたけれど、これまた白だけで設計されたキングサイズのベッドがぽつねんと置いてあるだけ。
けれど、寝室から出たときにふと音に気づいた。
カチカチカチッとリズミカルながら単調な音。
聞いたことがある。
いや、聞き慣れているといってもいい。
これは、PCのキーボードを叩く音だ。
その音の方向へと顔を向ける。
それはとなりの部屋からだった。
わずかに部屋の扉が開いていて、その隙間から音が漏れ出ているらしい。
その扉の向こうに人の気配を感じるものの、どうも日向だとは確信できず、警戒しながら足音を立てないようにそっと近づく。
わずかな隙間から中を覗き込めば、制限された枠の中でも異様としか言いようがないものがズラリと連なっていて。
おそらくそれは、何台ものモニターとPC。
扉をそっと押し開けて、さらに愕然とした。
部屋一面、360度全方向に隙間なく広がる最新機器の数々。
室内の電気はついていないのに、モニターが多すぎて部屋ごと宙に浮いているようなぼんやりとした錯覚にとらわれる。
そして、その中央。
機器の人工的な光に照らされて、まるで命じられたことを淡々とこなすロボットのように、とんでもない速さでキーボードを叩いている人物。
「……ひ、なた……?」
つかえた掠れがかった声が喉の奥から零れ出た。
その瞬間、めまぐるしくキーボードを叩いていた音がピタリと止まった。
声に反応するようにゆっくりとこちらを向いた日向と目が会った瞬間、ゾワッと全身の毛がよだつのを感じた。
日向の瞳に、光がなかった。
人間らしさとか、瞳孔の反応だとか、そういう意味を全部ひっくるめて……まったく生の感じられない瞳がこちらを覗いている。
たしかにこちらを向いているのに、どこを見ているのかわからない焦点が定まらない目。
純粋に恐怖を覚えた。
怖い、と思った。
こんな瞳は何度も何度も見てきたはずなのに、どうしてか日向のソレは受け入れられなくて。



