「テメェ、なに笑ってやがんだ」
いや、ごめん。
でも無理、笑うって。
口をふさぐ恭也の手をどけて、あたしはユキちゃんにごめんねと目線を送る。
顔全面にイヤイヤ押し出しながらも大人しく抱かれて、こちらに潤んだ瞳を向けてくる日向に笑いかけた。
「頑張れ、日向。ちょっとだけ我慢ね」
そう小さい声で投げかけると、日向はコクッと一生懸命うなずいた。
その健気な様子にこんな状況ながらスッとその場から重苦しい雰囲気が消える。
よし、これなら動けるかな。
あたしは恭也から離れてとなりに並ぶと、身軽になった身体をほぐすようにその場で足首をストレッチする。
それを見ていた恭也が珍しく焦ったように耳打ちしてきた。
「おい、お前。戦わずに逃げろよ」
「え? なんで?」
「なんでって……お前、いちおう女だろうが。万が一でも怪我したらどうすんだよ。相手は熊かもしれねぇんだぞ」
お、女って……一応でもそう認識してくれてたんだ、恭也。
純粋な驚きと妙な恥ずかしさに複雑な気持ちに駆られながらも、あたしは毅然と首を横に振る。



