サヨナラも言わずに


「新しく美琴さんの担任になりました、若宮です」



若宮は礼儀正しく挨拶した。


沢田の母親は軽く頭を下げた。



「それで……美琴さんの様子は……?」



若宮が遠慮気味に聞く。



まあそうだよな。


こんなこと、簡単に聞けることじゃねーし。



すると、沢田の母親は黙ったまま首を横に振った。



やっぱり、まだ目を覚まさないのか……



「もう、目を覚ましたくないのかなぁ」



彼女は力なくそうつぶやいた。


その言葉を聞いて、なぜか俺は悔しくなった。



沢田……


母親をこんなに追い詰めて、なにがしたいんだ……?


充分に心配されてるだろ。


なにが足りない……?



俺も早くお前と話したい。


だから、目を覚ましてくれよ……



優しい瞳で沢田を見つめた母親は、沢田の長い前髪をわけ、頭をなでた。


沢田の顔がはっきりと見える。