「望美は、今日も教室の方に行くのか?」

「うん、午後からね」

私は、数年前から絵描き教室を始めた。

家の近くのアパートを借りて、子供たちに絵を教えている。

これは、奈津やルルたちのおかげで見つけられた私の大切な夢の一つ。

「午後からってことは、午前は俺と一緒に来るのか?」

「ううん」

私は、首を左右に振ってお腹を抑える。

「産婦人科に行ってこようと思うの」

「えっ……」

奈津は、驚いて目を見開く。

「もしかしたら、二人目かもしれないの」

私がそう言うと、奈津は立ち上がると私を抱きしめてくれた。

「そうか……」

「うん……」

雪菜が生まれた時も、奈津は凄く嬉しそうだった。

でも、奈津は男の子も欲しいと言ってたから、二人目の子供が男の子なら奈津は、絶対その子にサッカーを教えると思う。

だって、前に言っていたから。

『男の子が生まれたら、その子にサッカーの楽しさを教えたい。でも、女の子でも、自分が夢中になれることがあるのなら、諦めずそれを追い続けてほしい』

と──

「あぁ……、やっぱり俺も望美と産婦人科行きたい!」

「それは駄目よ。子供たち待ってるんだから」

「でも、すっごく気になる!」

「電話するから、ちゃんと待ってて」

奈津はしぶしぶ頷く。

その姿が可愛くて、心から愛おしいと感じてしまう。

「ほら、そろそろ行かないと」

「分かった」

ジャージに着替えた奈津を、玄関先まで見送る。

「ちゃんと連絡くれよ」

「もう、分かってるよ」

奈津は、私に近寄ると軽く頬にキスをしてくれた。

「それじゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

奈津が出かけた後、私はキスをされたところに触れる。

「昔は、恥ずかしくて中々出来なかったのにね」

昔のことを思い出して、つい笑ってしまう。

「さて、片付けしちゃおうか」

踵を返してリビングへと戻ろうとした時──

光輝く物が私の横を通り過ぎた。

「ん?」

後ろを振り返ってみるけど、そこには何もいない。

「……気のせいかな?」

特に気にせず、私はリビングへと戻った。

一匹の青い蝶は、私の姿を確認したあとその場から姿を消した。