「さっき俺のことを好きって言いましたよね?」



いつも眉間に皺が寄った顔からは想像できないほど穏やかな顔。
コツンと先生の額とあたしの額をくっつけてきた。




「…俺は自分が思う以上に、あなたのことが好きみたいです」

「……っ、うそだ」

「嘘じゃないです。だってあなたと喋れなかった1ヶ月はあんまり楽しくありませんでしたからね」

「…けどっ、せんせーはあたしがいない方が仕事がっ、」

「そう思っていたんですけどね」



……え?




「あなたがいない方が静かで仕事が捗るなんて思っていたけど、実際はその逆でした」


先生、何言ってんの…?




「あなたが保健室にいないことに気づいた日から、やたらとレポートに記入ミスがあったりしました」




あたしの瞳を、チョコレートを溶かしたような甘い色で見つめてくる先生。
抱きしめる力を強くしてあたしの肩口に顔を埋めた先生は、フッと笑みを零した。




「俺、思い出したんです。
あなたが一年ちょっと前に、電車で泣いていた子だって」




その言葉に先生を見るが、肩口に顔を埋めたままの先生の表情はわからない。



「なんで俺みたいなお世辞にも良い性格じゃない奴に、こんなに懐いてくれてるんだろうってよく思うことがあったんです。
それで少し前にあなたと廊下ですれ違った時に、甘い香りで思い出したんです」

「……せんせー、変態さん?」

「…そうですね。変態かもしれません」




けど、そんな変態が好きだと言ったのはどこの誰ですか。



肩口から顔を上げないまま言ってくる先生に、
苦笑いで返事をする。



「あたしですねー」



その返事に先生は顔を上げると、先生のそれとあたしのそれをくっつけた。

チュッと可愛らしいリップ音がして離れたそれを目で無意識に追えば、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべている先生と目が合った。




「勝手に俺の中に入ってきて、散々俺を振り回して遊んだ責任を、当然取ってくれるんですよね?」

「…あたしが責任取る側ですか?」

「そうです。散々会う度に好き好き言ってくるくせに、急に離れていくなんて俺は許さないですよ」

そう言って誰もが見惚れるような笑顔で笑った先生は、あたしの耳元に口を寄せると、






「…俺を惚れさせた責任を取ってくださいね?姫乃?」






それはそれは楽しげに笑ったとさ。




「俺が名前で呼ぶんですから、姫乃も名前で呼ぶんですよ」

「それは良いんだけど、せんせーはあたしの名前知ってたの?」

「知らないと思いますか?あなたはこの学校だと結構有名で名前が知れ渡ってるんですよ」

「……あたし何かしたっけ?」

「そんなことより、俺とキスをしてください」






ぎゅうっとあたしを抱きしめている先生は、あたしに啄むようなキスを何回もした。


それから朝のショートに担任が呼びに来るまで、キスが止まることはなかった。




先生となんやかんやあったけど、今でも毎朝保健室に通うことはやめていない。












今日も大好きな先生が待っている保健室のドアを開ける。






「たのもー!!」










fin.