『ですが、この手術は大変難しいものになります』


何でもこの医者が言うには、俺の頭の中に出来た腫瘍はすこぶる空気を読まない場所にあるらしい。


俺は医者じゃないし、小難しい事を説明されてもいまいち分からなかったけど、これだけは分かった。


手術の成功率は五分五分。


例え成功したとしても、何らかの障害が残る可能性がある…と。


『障害というのは…?』


『岩田さんの記憶に影響を及ぼすものです。例を上げれば、自分が何者か分からなくなってしまったり、大切な人の顔を忘れてしまったり。一番最悪なケースは今までの記憶全てを忘れてしまう事も』


ドラマって案外忠実に再現されてるんだな…。なんて、この時の俺の頭の中は意外に冷静だった。


医者がわざとらしく作り出す重々しい雰囲気も、なぜだか俺には他人事に思えて、自分の事として上手く受け入れる事が出来ない。



『手術には同意書へのサインが必要となります。ご家族とよく話し合ってください』


『時間は…』


『は?』


『手術するかしないか…考える時間はどれくらいありますか?』


『…そうですね。命に関わる事ですから、そうすぐにご決断は難しいと思います。薬などで進行を抑えたとして、遅くても年末までには…』


『分かりました』