彼はモテる。それは今も変わらないようで、わたしと別れたあとも女性関係で苦労はしなかったらしい。

 探求心が強く、浅く広くがモットーの彼は、昔から色々なことに興味を持ち、あらゆることに手を出した。わたしと付き合っている間にも、登山や神社巡りや陶芸やサバイバルゲームや……。驚くほどのスピードで新たな趣味を見つけていった。

 悪く言えば飽きっぽいのだ。
 誰かと付き合っても、すぐに別れてしまうらしい。そんな彼がわたしと三年も付き合ったのはちょっとした奇跡なのかもしれない。

 そんな彼が最近付き合っていたのは、あの頃のわたしのようにおとなしくて従順で、思ったことをはっきり言わない地味な子。
 今まで一番長続きしたわたしのような子なら、楽に付き合えるかもしれないと思ったらしい。

 けれど状況が変わってしまった。
 彼女が妊娠してしまったのだ。
 それは、予定外の妊娠だった。

 妊娠を機に、今までおとなしくて従順で、思ったことをはっきり言わない地味な印象だった彼女は豹変し、ヒステリックに注文をし始めた。

 お腹が空いたと深夜に彼を買い物に行かせたかと思えば、深夜の食事が原因で太ったと責め、彼が不機嫌になると途端に泣き始める。疲れてうたた寝する彼を見てけたけた笑ったかと思えば、「私はお腹に人を入れて大変なのに良い身分ね」と言って怒り出す。突然会社に電話をかけてきて、何事かと思えば「ゼリーが食べたいから昼休みに買って来て」と注文したり。

 彼は途端に不安になった。
 この飽きっぽい性格で、ヒステリックな彼女の面倒を見て、子どもを育てることができるのだろうか、と。

 そして予定外の妊娠で情緒不安定な彼女のフォローに疲れて、アイスの注文メールも着信も完全無視し、女友だちと飲みに出かけたらしい。彼女は「私と赤ちゃんを見捨てて浮気するなんて」と鬼の形相でそれを咎め、酔いが冷めきらない彼はつい「望んでないならおろせばいい」と言ってしまったのだ。

 彼女は泣き出した。子どもみたいに、わんわんと。びーびーと。嗚咽まじりで、無様に泣いた。泣きながら彼を責めた。

 その様子を見ていたら、思い出してしまったらしい。三年前、浮気について怒りもせず、泣きもせずに別れた、わたしのことを。

 思い出したら顔が見たくなって、共通の友人に店の場所を聞き、訪ねて来たのだ。

 一番長続きした元恋人をからかって、この最低な気分を紛らしたかったのだ。

 その思惑は大外れ。わたしは彼の期待に応えず、見も話しもしない。

 そして気付いた。元恋人は別れてからの二年で、変わってしまった、と。