新田海は話す気がないのか?
「そうか。引き止めて悪かったな」
あたしはそう言って服を離した。
そして2人は並んで奥に入っていった。
「ホントに大丈夫かなぁ……」
新田海たちと別れて、ウサギがボソッとつぶやいた。
なにをそこまで心配しているのだろうか。
昨日、きちんと正広にも説明したではないか。
……乱魔だということを伏せて。
「被害者の遺族なら」と、正広は快諾してくれた。
だから、不安になる要素はどこにもない。
「成瀬さんが乱魔って気付かれたらどうするの……ちぃちゃん……」
「それは……、どうにかなるだろう」
正体がバレるほうを不安に思っていたらしい。
すると前の方から見覚えのある男性が歩いてきた。
「成瀬さん……」
成瀬一弥の姿を見た途端、ウサギはうつむきながら言った。
“バレないように頑張ってください”とでも言いたげな感じなのに、それを言おうとしない。
なぜかは知らないが。
「おい」
あたしはウサギに注目していた成瀬一弥を呼んだ。
すると成瀬一弥はあたしを見下ろした。
身長的に仕方ないことだから、対して気にしない。
「一弥と呼べばいいか?」
署内で“乱魔”と呼べばそれこそ何のために正広を騙しているのかわからなくなる。
「ああ、いい」
「じゃあ、行くぞ」