正広の低い声を聞いて、一瞬体がビクッとした。
きっとなにも手出しができなかったあたしに愛想でもつかしたのだろう。
「どうしようもなかったのだ。今回、乱魔が本当に盗む気でいたことはわかっていたが、どう出るか予想不可能だったのだ」
「質問を変える。お前はどうしたい」
声のトーンを変えずに言う。
平常心を装っているが、実際恐ろしい。
さすが警察官。
迫力が違うな。
「とりあえず様子を見る」
「つまり次の犯行が予想できているのになにもしないということか?」
なにをどう解釈したらそうなるのかわからない。
「違う。これ以上柏木冬馬を刺激したらそれこそ逆効果なのだよ。本格的に信用されなくなる。1度自分でどうにかしてものを守ろうとして盗まれたとき、奴はあたしたちに頼るしかない。そこを狙うのだ」
そう言い切ると、急に眠気に襲われ、あくびが出た。
「時間も時間だし、もう帰ろっか。お父さん、僕たち先に帰るね」
それを見たウサギがいち早くそう言い、あたしの手を引いた。
あたしたちは20分くらい歩いて家に着いた。
あれから約1ヶ月。
乱魔は何度も柏木冬馬のものを狙っては盗んでいった。
もちろん、返すような素振りは一切見せない。
あたしたちは未だになぜ乱魔が柏木冬馬に執着しているのか、わからないでいる。
さらに、どこから情報が漏れたのか、世間も騒ぎ始めた。
乱魔がものを盗み始めた、と。
そしたらあることないことタラタラと言う評論家たち。
偉そうな口振りで乱魔のことを語る。



