柏木冬馬は503号室に住んでいるらしい。
つまり、5階。
となると乱魔の登場の仕方も限られてくる。
ベランダから侵入、としか考えられない。
他にあるとしたら、素直に玄関から入ってくるくらいだが、それはない。
理由は簡単で、単に格好がつかないだけだ。
よって、ベランダに気を付けておけば、乱魔を捕まえられるかもしれない。
あと1分……
30秒……
5、4、3、2……
1……!
10時ちょうどになると、部屋の明かりがすべて消えた。
いつも通りだな。
「こんばんは、柏木冬馬さん。あなたの腕時計をいただきに参りました」
予想通り、乱魔はベランダから現れた。
窓も空いているため、わずかな風が部屋に吹き込んでくる。
早く乱魔を捕まえたいのだが、暗くてむやみに動けない。
それに、乱魔の姿をはっきりと確認出来ない。
「ど、どうして僕のをっ!?」
すると柏木冬馬が窓の方に向かって叫んだ。
「それは秘密です。まあ、自分の胸に手を当てて聞いてみてください。きっと答えがわかるでしょうから。さて、お話はここまで。あなたの左腕についているその腕時計。いただいて帰りますね」
その言葉が聞こえたと同時に、なにかが横切った。
「あ、無能なラビット。ぜってぇ邪魔すんなよ」
またベランダのほうから声がした。
だが、今度の声は低く、いつもの乱魔とは違う印象だった。
というか、なにも手出しができなかった。
あたし、本当に無能だな……



