「……みさき、と言えばわかるだろ」
そう言えば、みさきと名乗ったな。
「おい。名前くらい、教えろよ」
どうやら仲間との会話が終わったらしく、あたしに言ってきた。
「ん?教えてあるだろう」
「みさきじゃねぇんだろ?」
「ほう……なかなか鋭いやつであるな。もっとどんくさいやつかと思ってたんだが」
「いいから教えろよ」
乱魔の機嫌がどんどん悪化していく。
あたしはなんだか、それが楽しくて仕方ない。
「あたしが敵とわかった瞬間に態度を一変させるとは……相当器が小さいな」
さすがに言い返して来ると思ったのだが、乱魔はなにも言ってこない。
どうやら、我慢をしているようだ。
強く拳が握られている。
「まあ、いい。名前くらい教えてやろう。あたしの名前は三崎知由だ」
また部屋に沈黙の時が訪れる。
そろそろか……
「乱魔ぁ!」
部屋の外でパタパタと足音がする。
「ちっ……」
当然、乱魔にも足音が聞こえる。
だから、乱魔は舌打ちをして、部屋から脱出した。
なんとも計画通りに動いてくれるのだから、単純な奴だ。
これで乱魔はあたしとラビットの名前を知った。
『住吉』と『三崎』で名字が違うんだ。
あたしたちのことを調べようとするに決まっている。
さてあたしも調べるとしよう。
『成瀬一弥』について──
「宝は守れたのね、おチビさん」
乱魔も帰ったことだし、あたしたちも撤収しようと片付けているときに、話しかけられた。
出たな、バカお嬢様。



