「ちぃ」



あたしが拳を握りしめていると、ウサギの手があたしの右肩に置かれた。



「落ち着いて。ムカつくのはわかるけど、ちぃの相手はこの子じゃないでしょ」



その言葉を聞いて、素直に落ち着いた。


何度か深呼吸をする。



「お嬢様、このラビットが必ずお宝をお守りいたします」



かなり、無理をした。


慣れない口調に、声のトーン。


それに、このバカお嬢様に下手に回らなければならないことがかなり気に入らない。


だが、それは今だけの我慢。


今夜さえ乗り切れば、もう会うことはない。



「ふんっ。守れなかったら承知しないから!」



捨て台詞がそれか……


古いタイプの人間だな。


というか、盗まれるかどうかは心配しなくてもいいんだがな。


彼女、ニュースというものを見ていないのだろうか……




「よし、行こっか」


「ああ」



あたしはウサギの後について金庫のある部屋に向かった。



「君がラビットかい?」



部屋の前に立っていたのは、50代半ばくらいの男性。


その男性があたしたちの姿を見たと同時に、不安そうに訊いてきた。



いかにも仕事ができそうな男性は、星野財閥の社長。



「そうですよ」



社長の問いに答えたのはあたしではなく、ウサギ。


あたしは黙ったままウサギの隣にいる。




そうか。


世間ではウサギがラビットなんだった。


なぜあたしはあのバカお嬢様に素直に向き合っていたんだろう。


違うと言っていればよかった。



「そうか。必ず、守ってくれるんだろうね」



……親子そろってテレビを観ないのか、この家は。