翌朝、あたしは乱魔に手を引かれて、倉庫に向かった。
倉庫に着くと、ウサギの姿が目に入った。
約束の時間よりも早いのに……
しかし、ウサギを見て乱魔が動揺していることがわかった。
しばらくの間、入り口から動こうとしないのだ。
「……あの……」
やっと動いて、声をかけたと思えばこれだ。
なんとも臆病な奴だな。
「はい……?あっ……!」
あたしを見るなり、抱きついてくるウサギ。
演技力が増したな。
「よかった……無事だったんだね。心配したんだよ?」
「じゃ、俺はこれで」
すると、乱魔が帰ろうとしていた。
「名前を聞け」
あたしはできる限り小さな声でウサギに言った。
「あ、あの!」
「はい?」
乱魔が振り向きざまに言う。
「お名前、聞いても……?」
ウサギ……
ほぼ、というか、完全に素ではないか。
「成瀬です」
……成瀬、一弥……
「成瀬さん、ありがとうございました。僕、住吉雪兎と言います」
あたしは乱魔の本名を知れて満足したため、ウサギの服を引っ張り、帰ろう、とジェスチャーした。
それに、気付いたウサギはうなずいて、倉庫の出口に向かう。
「それでは……」
「あ、はい」
なにか考え事をしていたのか、乱魔の返事はどこか曖昧だった。
倉庫を出る際、乱魔と目が合ったため、あたしは小さく手を振った。
「ちぃちゃん」
隣を歩くウサギが名前を呼んだ。
「なんだ?」
まっすぐ前を見たまま答える。
「これからどうするの?」
「それは乱魔たち次第だな。下手には動けん」
向こうに空海がいる限り。
パソコンにデータを入れていたら、ハッキングされて情報が漏れる可能性がある。
あたしもハッキングすれば向こうの行動を知ることができるが、空海のパソコンにそう簡単に侵入できるとは思えない。
となると、大人しくあいつらが動くのを待つしかない。
きっと、近いうちに動くはずだ。
乱魔なら、ウサギの素性を知って、なにもしないわけないからな。