うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 



「おはようございます」

 朝、月橋エレナは、いつものように、まんべんなく皆様に愛想の良い顔を向けながら、出社した。

「おはよう」
「おはようございます、エレナさん」

 男性社員も後輩の女子社員もにこやかに返事をしてくれる。

 鏡で隅々までチェックしてきた私は今日もパーフェクトだ、と思いながら、エレベーターに乗ると、真島了弥が乗っていた。

 ちょうど、開閉ボタンの側に居たらしく、押してくれている。

「す、すみません、課長」
と言うと、なにも言わずに、手を離した。

 他に乗ってきそうな人間が居なかったようだ。

 すぐに扉は閉まり、了弥はなにも言わずに、手に持っていたなにかの書類を見始めた。

 顔はいいんだけど、愛想がないよな、この人、と思いながら、横顔を見ていると、いきなりこちらを向き、
「なんか用か、月橋」
と言ってきた。

 ひいっ、と身をすくめる。

 顔が整ってる分、真面目な顔をされると怖い。

 身長もあるから、かなり上から見下ろされているし。

「なっ、なんでもないですっ」
と言うと、そのまま、了弥はまた、何事もなかったかのように、前を見る。