うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜




 社食を出て、自動販売機で珈琲を買いながら、エレナが言う。

「そういえば、どうなったの?
 あの逃亡男は」

 ……逃亡男ってな。
 でも、まあ、そうか、と思った。

 朝、なにも言わずに逃げたのは、逃亡したに等しいよな。

 やっぱり、探す意味はないかな、と改めて思う。

 でも、やっぱり、初めての相手だから、誰なのかくらいは知っておきたい。

 そう言うと、エレナは、
「知らない方がいいような人かもよ。
 だから、顔思い出せないんじゃない?」
と言ってくる。

 うっ。
 まあ、そういう想定もあるか、と思った。

 紅茶を買い、熱いな、と思いながら、ちょっと口をつけてみる。

 最近は、了弥の淹れる美味しい珈琲に慣れているので、珈琲は外ではあまり飲む気がしなかった。

「そういえば、真島課長とはあれからどうなったの?

 しゃべっちゃったんでしょ?
 怒ってる?」

「うーん……。
 怒ってるっていうか。

 心配してるかな?」

「なんか……怖いくらいやさしいわね、意外にも」
と言ってくる。