うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 呆れたのか、了弥はしばらく口をきかなかった。

「ねえ、どうしたらいいと思う?」

「……淫乱女」

 ぼそりともらした了弥の言葉に、はい~っ? と喧嘩越しに訊き返す。

「ほんとに淫乱だったら、悩まないわよっ。
 なに言ってんのよっ。

 どうしたらいいと思う?」

「どうしたらって、ほっとくしかないんじゃないか?」

「え」

「どうせ、一夜の過ちだろ。
 相手も覚えてないかもしれないし」

 妊娠でもしてんのか、と訊かれる。

 昨日の今日でわかると思うのか、この莫迦、と相談に乗ってもらっているにも関わらず、心の中と表情で罵ってしまう。

 了弥はひとつ、溜息をつき、
「まあ、ともかく、全部なかったことにしろ。
 あ、時間だな」
と早口に言い、時計を見る。

 障子を開けて出て行こうとしながら、振り返り、
「今日は奢ってやろうと思ってたんだが、つまらぬ話を聞かされたから、お前の奢りな」
と了弥は言った。

 這うようにして、ちょっと待った、と止めようとした瑞季の頭に伝票を載せてくる。

 うう……。

 やっぱり、言うんじゃなかった。