「なに渋い顔してるんだ。
せっかく連れてきてやったのに」
と個室で了弥が言う。
「いや……ちょっと困ったことがあって」
会社から少し離れた場所にある京料理の店、神楽に来ていた。
瑞季の実家は濃い味なので、京料理は実はあまり得意ではないのだが、此処の店は別だった。
見た目も綺麗だし、味の薄さも気にならない味付けだからだ。
まあ、京料理は得意ではないとか言うと、母親の実家が京都の大きな料亭だという了弥に怒られるかもしれないが。
籠に飾るように入れられたちまちまとした可愛らしい料理をつまんでいると、了弥は、
「困ったことってなんだ、言ってみろ」
と言う。
うーん、と瑞季は腕を組み、小首を傾げてみせる。
「こんな、いいつまみになりそうな料理なのに、今、日本酒を呑めないこと?」
と言うと、阿呆か、と側にあったメニューではたかれた。
了弥は課長だが、同期なので、社外ではタメ口だ。



