うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 まあ、そうなんだろうけど。
 それにしても怖かった、と布団を握りしめる。

 了弥は、ひとつ溜息をつくと、渋い顔をして言った。

「だから、もう全部忘れろと言ったろう」

 忘れろなんて言われても、と思いながら、すがるように了弥の目を見ていると、彼は、
「じゃあ、俺としてみるか?」
と言ってきた。

 ……は?

「嫌な記憶を消したいときは、新しい記憶で塗り替えたらいいんだよ」

 俺が協力してやろう、と両の手首をつかんでくる。

 瑞季は、慌てて、その手を振り払った。

「け、けけけけ、結構ですっ。
 おやすみなさいっ!」

 庭先を駆け回るニワトリのように叫び、布団をかぶる。

 これ以上、トラウマを増やしたくないっ!

 了弥が少し笑うのが布団越しに聞こえてきた。

「じゃあ、早く寝ろよ」
と言って、出て行こうとするので、

「了弥」
と布団から顔を出して、呼びかける。

「ありがとう」
と言うと、了弥はちょっと手を挙げ、いやいや、と言ったあとで、

「襲うぞ、と言って礼を言われたのは初めてだ」
と笑って出て行った。