うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

 


 グラウンドに戻りかけ、神田は振り返る。

 木々と金網の向こうに、機嫌よく歩いていく瑞季の姿が見えた。

 思わず笑みをこぼしたとき、ジャージ姿の若い男が話しかけてきた。

「神田センセー、また、何処のお母様ですか? 今の」
とニンマリしながら言ってくる。

「いやいや。
 今のは個人的な知り合いで」

 そう含みを持たせて言うと、へー、と言いながら、物珍しそうに瑞季を眺めていた。

「人は自分にないものを求めるって言うから、意外と神田先生の彼女とか、美人じゃないのかも、と思ってたんですが。
 綺麗な人じゃないですか」
と言ってくる。

 いやいや、なに言ってるんだ。

 自分の顔が綺麗だろうが、そうじゃなかろうが、美しいものは好きだ。

 だが、確かに、美人じゃなくとも、そう気にはならない。

 瑞季をいいと思うのも、彼女が綺麗だからじゃなくて。

 なんとなく愛嬌のある顔をしているからだ。