うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

「……まあ、予想外に」

 殴ろうかな、と思ったが、とりあえず、黙っていたのは、了弥の背中が心地よかったからだ。
 
 温かいし、いつもより視界が高いし。

 近所のいい香りのする木々を揺らした夜風が鼻先を掠めていく。

 そして、了弥自身のいい匂いがする。

 了弥の頭に頭を寄せると了弥は言った。

「まあ、重いが……
 これも、幸せの重みかな」

 なんだかちょっと泣きそうになった。

 いや、泣いてるな、私、と思う。

 あの夜からずっと張り詰めていた緊張が、今、やっと、ぷつりと切れた気がした。

「……悪かった」
と了弥が言う。

「なにが?」
と言うと、

「いろいろだ」
と言う。

 了弥はいろいろと考えているようだが、私が謝って欲しいのはひとつだけだ、と思っていた。

 あの夜の相手が自分だと黙っていたこと。

 それだけ。