うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜

『私、その辺で帰っちゃったからなー。

 あんた、じゃあね、バイバイ。今度、呑みに行こうねって手を振ってくれたのに、記憶にないのね……』

 呑みに行く約束は反故? と恨みがましく言ってくる。

「いや、わかった。
 行こう、行こう」

 ところで、神田くんの連絡先は? とは聞きづらかった。

 せめて、何処の小学校かは訊くべきか、と思ったとき、未里が、
『あっ、起きたっ。
 今、寝かしつけたのにっ。

 もうーっ。
 貴方が、テレビの音、上げるからでしょ。

 何回も見てんじゃんっ、ピラミッドなんてーっ』
と旦那に文句を言っているので、笑ってしまった。

 あっちも同じ番組を見ているらしい。

『私は、兵馬俑(へいばよう)の方が好きなのにーっ』

 何故、兵馬俑、と思いながら、子供の泣き声を聞きつつ、電話を切った。